「気候の危機にどう向き合うか」第一人者の東大?江守教授が講演
-茨城県地域気候変動適応センターシンポジウム開催
茨城県地域気候変動適応センターと茨城大学は11月28日(木)、澳门皇冠,澳门现金网図書館3階ライブラリーホールとオンラインで、2024年度シンポジウムを開催しました。温暖化研究の第一人者である、東京大学未来ビジョン研究センターの江守正多教授を招き、「気候の危機にどう向き合うか」をテーマに講演していただきました。気候変動の研究や対策に関する報告や、パネルディスカッションも行われました。
茨城県地域気候変動適応センターは、気候変動適応法に定められた「気候変動影響及び適応に関する情報の収集、整理、分析、提供、技術的助言を行う拠点」として、茨城大学に設置されています。地域気候変動適応センターが大学に設置された事例は茨城県が初めてで、県内自治体や各種団体、学校、住民と協力し、気候変動及び温暖化の影響やその適応のための様々な情報を収集?解析しています。
江守教授は気候変動のシミュレーションが専門。IPCC第5、6次評価報告書の主執筆者です。
2015年に採択されたパリ協定は、「世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」としています。江守教授によると、2023~2024年は世界的に高温となり、産業革命前からの差が1.5℃を超えている月もありました。パリ協定の基準は10年間の平均気温なのでまだ基準値を上回ってはいませんが、「確実に(その基準を超える)トラックに乗っている」と述べました。
講義では、地球温暖化の仕組みやその影響について説明し、「人間の影響による温暖化は『疑う余地がない』というのが、現在の科学の結論」「適応策でしのぎながら、温暖化を止める緩和策を真剣に行わなければならない」と強調しました。発電や車、家電の脱炭素化に必要な技術や資金がありながら、脱炭素化による「敗者」を出さないよう合意形成に時間がかかっている現状を鑑み、「社会の調整スピードを加速すべき」と指摘しました。
また、世界市民会議にて実施された、気候変動に関するアンケート結果を紹介。日本では6割が「気候変動対策は生活を脅かすもの」と答えましたが、世界平均は7割が「生活の質を高めるもの」と回答しました。江守教授は「日本人は温暖化対策=我慢と想像しがちだが、脱炭素化はしぶしぶ努力して達成できるものではない。社会の仕組みや人々の常識が変わる『大転換』が必要だ」と主張しました。
最後に「人類は『化石燃料文明』を卒業しようとしている」と伝えました。「石器時代が終わったのは、石が無くなったからではない」という元サウジアラビア石油相の言葉を引用し、「化石燃料が枯渇するから違うエネルギーを探すのではなく、さらに良いエネルギーシステムが手に入ったからそちらを使うといった動きが望ましい」と話しました。そして、市民にできることとして、対策の必要性を理解し、進まなければ声を上げ、変革を後押しすることを求めました。
茨城大学理学部の若月泰孝准教授は「気候変動適応研究の最前線」と題し、気候変動影響予測?適応評価の総合的研究(S-18)の報告をしました。
茨城県でも甚大な被害を出した令和元年東日本台風がこれから来ると想定したシミュレーション結果を提示。現在の気候に比べ、平均気温が2℃上昇した場合(+2℃)と、4℃上昇した場合(+4℃)の最大浸水深を見てみると、+2℃では20~50cm、+4℃では2~3m増加するといいます。若月准教授は「現在は床上浸水ですむ家でも、+4℃となると2階まで水に浸かる。2階に逃げればいいや、と考えていると、命を奪われることになってしまう」と注意喚起し、早期避難の促進などの防災、適応策の有用性を伝えました。
続いて、茨城県環境政策課の小林敦課長補佐が「茨城県における地球温暖化対策(緩和策)について」説明。茨城県地球温暖化対策実行計画の概要や、事業者や家庭を対象とする省エネルギー対策事業、再生可能エネルギーの適正導入などについて紹介しました。
最後は江守教授、若月准教授、小林課長補佐に水戸地方気象台の五味孝夫気象台長、茨城大学地球?地域環境共創機構(GLEC)の田村誠教授が加わり、パネルディスカッションを行いました。五味気象台長は「キキクル」をはじめとする気象庁の防災気象情報について紹介し、防災気象情報全体を適切に活用して対応することの重要性を指摘しました。
田村教授は海面上昇や高潮などの損害よりも堤防による防護や移転の費用の方が全体としては安くなり適応策を講じること大切であること、しかし適応策にも限界があり、適応策にとっても緩和策が重要であることなどを述べました。
会場からも気候変動のメカニズム、政府や個人の緩和策、適応策などに関する質問や意見をいただき、活発な議論がなされました。
(取材?構成:茨城大学広報?アウトリーチ支援室)